(終了)Report:遠距離現在 Universal / Remote (熊本市現代美術館)
Report:遠距離現在 Universal / Remote (熊本市現代美術館)
暑い暑い夏を経てやってきた秋の気配。
いつの間にか街中にも賑わいが戻り、コロナ禍前と変わらぬように見える日常がそこにある。熊本市現代美術館のこの秋の展示は「遠距離現在 Universal / Remote」だ。
パンデミックをきっかけにあらわになった、世界各地の人々が同時に共有する問題、様々な事象について考察する展覧会。 全世界「pan-」の規模で拡大し続ける社会への問題意識と、同時に進行する個人の「リモート」化の加速が生む孤独や孤立の問題という二つの視点から、グローバル資本主義やデジタル社会といった現代アートにおける従来のテーマを新たに据え直す展示となっている。
…というように、少しとっつきにくい現代アートではあるが、今展示は私たちが共通して体験した問題がテーマの主軸に据えられ、丁寧で読みやすいキャプションも用意されている。 ヒト・シュタイエルによる、40分の映像作品を含むインスタレーションから始まる展示は、難しいことは置いておいて何よりピンと張り詰めた空間が格好いい。カッコいい空間に浸ったところで、次はAI生成画像の平面作品が整然と展示されている。どことなく不穏で不気味な静寂がある。これはタイトルにもじっくり注目していただきたい。
中国の監視カメラ映像を素材とした映画作品(1日4回上映)、海底ケーブルを美しく撮影した写真…と淡々と続く展示。思考と情緒を緩やかに刺激する作品が並ぶ。現代アートは決して難解ではない、と感じさせてくれるのは、キュレーターにより魅力的に構成された文脈ある展示のおかげかもしれない。
井田大介、地主麻衣子、木浦奈津子、と勢いある新進気鋭の作家の作品が一度に見られるのも見どころの一つ。井田大介さんは説明の中で「見て自由に感じて欲しい」と語っていた。 世界の変化の中でも、一貫して作り続け表現し続ける作家たちの情熱に触れることができた。
ひとつひとつの作品とじっくり向き合い思考の海に漕ぎ出すもよし、お気に入りの現代アートを見つけに気軽に立ち寄るもよし、の贅沢な展覧会。今を生きる私たちだからこそ感じるものがありそうだ。